「地底水脈に眠るダイヤモンド」
古河グループの礎となった栃木県の足尾銅山、日立グループの始祖となった茨城県の日立鉱山と並び称せられる愛媛県の別子銅山は、1690年の発見から1973年の閉山までの約3世紀に渡って、我が国に多大な貢献をなした一大近代産業遺産である。この銅山が住友財閥と新居浜市との基礎をつくったといっても決して過言ではない。海抜マイナス1000mに及ぶ坑道は、現在に至るまで日本において人間が立ち入った最深の地点でもある。 険しい山中、溶鉱炉跡や小学校跡、劇場跡、広大な面積に広がる近代遺産群。明治の最盛期には人口が1万2千人を越え、愛媛県でも松山市に次ぐ大きな町であった旧別子山村地区は、2003年の新居浜市への編入直前には人口200人余り(離島を除く全国ワースト2)、全国の自治体で唯一「1年間で一人も赤ちゃんが生まれなかった過疎地」となってしまったのである。県内第二の都市が消滅して遺跡になるまで僅か100年。人が引いていく速さを目の当たりにできる。 この深山の産業遺跡の中に「ダイヤモンド水」と名付けられた湧き水がある。昭和26年、別子鉱床の中の金鍋鉱床を探し当てるためにボーリング調査を行った。予定深度到達直前に水脈に突き当たってしまい、大量の地下水の噴出によってダイヤモンドを散りばめたドリルのロッドの先端がねじ切れて、今も地底に眠っているという。その水脈から湧き出ている水なので、いつしか「ダイヤモンド水」と呼ばれるようになったということである。 工業用ダイヤモンドなので宝飾品とは品質的な差があるとは思われるが、さながらゴールドラッシュのように全国から多くの人たちが集まっていた当時のバブリーな華やぎを連想させるお宝である。誰も居ない山中で、人の世の無常や夢の跡を肌で感じながら、ダイヤモンドを浸した湧き水を味わいたい。
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「新居浜市内から県道47号線を新居浜から車で約1時間。旧別子銅山産業遺産跡への起点となる日浦登山口。」
新居浜市内から県道47号線を新居浜から車で約1時間。旧別子銅山産業遺産跡への起点となる日浦登山口。
「小足谷川沿いに集落跡、劇場跡、小学校跡を経て、約1時間登ると現れる高橋精錬所跡。」
小足谷川沿いに集落跡、劇場跡、小学校跡を経て、約1時間登ると現れる高橋精錬所跡。
「高橋溶鉱炉の在りし日の写真。(現場の掲示板より)」
高橋溶鉱炉の在りし日の写真。(現場の掲示板より)
「高橋溶鉱炉跡横で、今も登山者に憩いと潤いを提供しているダイヤモンド水。」
高橋溶鉱炉跡横で、今も登山者に憩いと潤いを提供しているダイヤモンド水。
「少し降りると小足谷集落跡。これは酒や醤油の醸造蔵「ヰゲタ正宗」の煙突跡であり足元の土には酒瓶のガラス片が混ざっている。酒蔵ができるほど賑やかな土地であったことの名残である。」
少し降りると小足谷集落跡。これは酒や醤油の醸造蔵「ヰゲタ正宗」の煙突跡であり足元の土には酒瓶のガラス片が混ざっている。酒蔵ができるほど賑やかな土地であったことの名残である。
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