「おんばの伝説」
海南町に流れ出る清流海部川(かいふがわ)の中流の笹無谷(ささむだに)は、室町時代から戦国時代に名をはせた海部刀の郷として刀匠たちが鍛冶場を連ねていた土地である。その笹無谷の奥の「おんばが滝」には、おんば(山姥)がいて田畑や家畜や人にも危害を加えていた。いつも頭に金でできた蒸篭(せいろ)を乗せて獲物を運んでいたという。このおんば、海部刀工の名匠として有名な氏吉(うじよし)と駆け引きをし、刀千本を頓知で騙しとられたという伝説も残っている。 おんばは、笹無谷より海部川の支流を遡った上流にある「おんばがたき」の洞窟に棲んでいたと伝えられている。そこには、おんばが使っていた金の蒸籠などの財宝が残されているものと伝えられ、戦後に土地の人がその洞窟を探しに山に入ったものの、険しすぎて発見がかなわなかったそうだ。地元では「おんばがたき」は「滝」ではなく「崖」であり、「おんばがたけ(嶽)」と呼ぶ方が正しいという説も在る。 おんば、世に言う山姥とは、妖怪や鬼女、魔女の類として語られるが、民俗学上の一説によると、その地の先住民族の末裔、山間を流浪しながら生きる山人、病により村を追われた人たち、郷を追われた犯罪者、山の神に仕える巫女等々の、郷の民とは異質な人たちが山岳宗教と結びついて、異端視、敵愾視なかには迫害視されたものかも知れない。人別帳等の表の歴史にはないものの、そういった世界が四国の山々にもあったことは口伝により伝わっている。そんな彼らが残した、そこはかとなく哀しい宝であるかもわからない。
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「清流海部川より分かれて支流に沿う林道に入る」
清流海部川より分かれて支流に沿う林道に入る
「川のほとりには祠が点在している。いろいろな伝説があるのだろう。」
川のほとりには祠が点在している。いろいろな伝説があるのだろう。
「どんどん高度を上げると滝があちこちに見えてくる。」
どんどん高度を上げると滝があちこちに見えてくる。
「今でも人の気配はほとんどない。」
今でも人の気配はほとんどない。
「川を遡ると山の向こうは太平洋、約40キロ南に行けば室戸岬である。」
川を遡ると山の向こうは太平洋、約40キロ南に行けば室戸岬である。
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